イタリアなう
昔、昔の恋人、そして男友達
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告白してしまいます。昔、昔、恋人がいて、その人は、イタリアのみならず、世界中で有名な男優でした。今の若い世代では、知らない人もいることでしょう。現存していれば、90代なかばにさしかかる高齢さ。ずいぶんと前に、惜しまれて旅立ったイタリア人です。
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その人の名は、マルチェッロ・マストロヤンニ。ソフィア・ローレンとの共演映画でも名高い人でした。
父ほどの年齢の彼と恋人の仲になったのはなぜか。説明はつきません。あまりに名高い相手ゆえ、秘めた恋だったことだけは確かです。さいごは、こんなふうでした。
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ある日、東京のカフェテラスで、バッタリ再会。周囲の目もあるため、長ばなしはできません。あいさつていどを交わしただけでした。喜劇映画にも数多く出演の彼でしたが、本質的には孤独なタイプ。哀愁をおびたまなざしで、私を見つめ続けたものでした。
秘めた恋はもの悲しい。それだけに、心の奥底にしみ入るもの。そんなふうに感じつつ、その場を去った私です。
それがさいご。別れの言葉も告げないまま逝ってしまった彼。私たちの恋は、ふたりだけの想い出として残るだけとなったのです。
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と書いて、エーッ⁉ 本当? 信じられない‼ と思われる方々ばかりでしょう。
そうなのです。これは、夢。ごくごく珍しく、鮮明なストーリーとして覚えている夢をみたのは、12月の寒い日でした。これはもう、文字として残すしかない。そうでないと、きっと、すぐ忘れてしまうでしょうから。
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ペンをとっていると、他のことに気づきました。かなり昔、マストロヤンニにちょっと似た男友達がいたのです。80年後半の年齢のはず。もしかしたら……。彼がこの世を去った? そんなふうにも思えてきました。
人生ははかなく短い。人はみな、いつか絶えるものなのですよね。北イタリアの冬の朝。ことさら寒さが身にしみました。
タカコ・半沢・メロジー